うつ病とは
従来形うつ病とは
本来、生真面目で自分を責め、こだわりの強いタイプの方がかかり易い心の病気である。その様な方が何らかのストレスを受け、うつ症状(抑うつ気分、入眠障害、途中覚醒、早朝覚醒などの睡眠障害、食欲不振、体重減少体調変調、意欲低下、イライラ感、集中力低下、空虚感、自殺念慮など)を示す心の病気です。
このタイプのうつ病には、抗うつ剤が比較的良く作用を示します。最近ではいろいろな抗うつ剤が開発され、以前と比べ副作用も少ない薬が登場しています。うつ状態は、脳の中の神経伝達物質の欠乏によって起こります。車で例えれば、ガス欠の状態がうつ状態です。
すべての心の病を癒すためには、薬物治療は大切ですが、精神療法(認知行動療法・森田的外来精神療法:認知の偏りから“あるがまま”、気分本位から事実本位にとらえる様にする精神療法など)と生活指導も大切です。治療のみならず、心のあり様・ものの見方が良い方向に向かう様に一緒に努力をして行きたいと思っています。
お手伝いが出来れば幸いと思っています。
現代うつ病(非定形うつ病)とは
前述した従来のうつ病とは違い、良い事があると気分が良くなり、好きな事には活動的で元気である。睡眠時間も長い、食欲もある、他人を責める、気分が不安定であるなど、少し従来のうつ病と様子が違います。抗うつ剤も効き目が悪い傾向にあります。
自分を内観し、水が濁るとアップアップする池の中の鯉(コイ)から、少々水が濁ってもアップアップしない鮒(フナ)に成る様に変わると良いのですが。
うつ状態に、軽度の躁状態、または、強い躁状態が伴う事があります。軽度の躁状態を伴う場合はⅡ型双極性障害,強い躁状態を伴う場合はⅠ型双極性障害と呼ばれます。この場合は、治療法が少し違ってまいります。
抗うつ剤や気分安定剤や抗不安剤などを症状に応じて使用いたします。薬物療法だけでなく、精神療法を併用します。下記の図で従来のうつ病と現代うつ病の違いを示しています。
従来のうつ病と現代うつ病の違いを示す表 | |
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従来のうつ病 | 現代うつ病 |
ほぼ一日中、ゆううつな気分 | 良いことがあると気分が改善 |
朝が特に悪い | 夕方から夜にかけて悪い |
ほぼすべての事に意欲がない | 好きな事には元気が出る |
食欲不振・体重減少 | 食欲・体重の増加 |
自責的 | 他罰的 |
集中力・決断力の低下 | 衝動的・イライラ感 |
パニック症とは
何のきっかけもなく、突然、動悸・息苦しさ・めまい・吐き気・発汗、手足のしびれなどが起こり(パニック症)、このまま死んでしまう気がする心の障害です。一度この様な体験をすると、また同じような事が起こるのではないかと不安になります。
この不安の事を予期不安と呼びます。現実にはこの様なパニックが起こっていないのに、起こるのではないかと不安に悩ませられ、狭い場所、逃げられない様な所に身を置くことに強い不安を感じます。呼吸の乱れ、つまり、吸う呼吸が吐く呼吸より強く長くなり(過呼吸)、酸素を多く吸い過ぎて、血液の中の酸素が多くなり、自律神経のバランスを乱して、上記で述べた様な身体症状・精神症状を呈します。薬物治療だけでなく、精神療法が重要な治療となります。昔から気は丹田(臍と急所の間)に収めよと言われています。
不安になり始めると、気が喉から上にあがり、のど、肩、首、頭、胸などが緊張して、自分が自分をコントロール出来ない状態になります。野球のバッターを見られると分かると思いますが、良い打者は肩に力が抜け下半身に力が入っています。
気が下半身に入って肩の力が抜けっているから、ホームランが打てるのです。パニックも同様、呼吸法が大切で、肩の力が抜ける様になると楽に成ると思います。簡単ではありませんが、時間をかけて取得する必要があります。パニックに成った事をマイナスに捉えず、この体験をプラスに捉えもう一度自分の考えを問い直して見る良い体験と考えてみては、如何でしょうか。
不安症(障害)とは
人前に出ると不安となり、頭が真っ白になり、手が震え、心臓がどきどきして、発汗する症状を呈する状態を社交不安症(障害)と言い、いわゆる、あがり症・赤面恐怖症と言います。その他にも、高所・狭所・高速道路・航空機などに身を置くと恐怖不安を感じ心身共にバランスを崩す方がいます。
この様な症状を示す方は恐怖性不安障害と言います。私も高速道路や航空機の着陸の時は、やはり怖さ・不安を感じます。不安や恐怖は誰でも感じる心の動きで、不安・恐怖感を感じるから、その危険から身を避けて、自分の身の安全を守る事が出来るのです。不安・恐怖を病的なものと捉えず、人間の本来の心の動きと考える様に成ると楽になります。不安にはこの様に対象がはっきりしている場合と不安の対象がはっきりせず漠然とした不安を感じる場合があります。この場合は全般性不安症(障害)と言います。不安症の治療は、薬物治療と物の捉え方を改善する精神療法(認知行動療法・森田法的外来精神療法など)
を並行して治療します。患者さんと話しながら、焦らず時間をかけて治療を試みたいと考えています。
強迫症(障害)とは
例えば、トイレに入って、手をきれいに洗っているのに、まだ汚れが付いって汚いという思い(強迫観念)が頭に浮かんで、その後も何回も手を洗う行為(強迫行為)を理屈では分かっているが止められない。この過剰な確認行為の為に日常生活に支障をきたす状態を強迫症(障害)と言います。抗うつ剤の中に、比較的作用がある薬物があります。
薬物療法と認知行動療法・森田的外来精神療法を併用すると良い状態になることが期待できます。ある程度長い治療期間が必要です。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは
生死にかかわる様な出来事を体験し、死傷の現場を目撃するなどの体験によって、強い恐怖を感じ、それが記憶の中枢にインプットされ、この傷が心的外傷(トラウマ)となり、その時の嫌な体験が何度も思い出され、あたかもその時に戻ったような恐怖を感じ続ける心の病気です。大きな嫌な体験をすると、誰もが繰り返し嫌な思いを想い出します。
このトラウマ体験が1ヶ月以上続く場合は急性ストレス障害と呼び、3ヶ月以上続く場合は慢性で心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。トラウマ体験として、大規模な災害、交通事故、性的虐待、家庭内暴力(DV)などがあります。PTSDを発症した方は、不安症、うつ病、アルコール依存、摂食障害などの疾患を合併することがあります。
PTSDの症状として、突然、過去の嫌な体験がフラッシュバックのように頭の中に浮かんできます。酷い場合は走馬塔の如く嫌な体験が連続して起こります。悪夢、過去の嫌な思いが浮かぶ、神経が過敏になり過覚醒の状態になります。トラウマと関係があるような所を避け、場合によっては、ひきこもり状態になる場合もあります。
PTSDの基本的な治療は、大きな嫌な体験によって、記憶の中枢にインプットされたトラウマ体験を消すことが大切ですが、簡単ではありません。最近の研究では、嫌な記憶がインプットされる記憶装置である扁桃体に入った記憶は消却されにくいと言われています。従って、トラウマ体験を消すことよりは、トラウマ体験をある程度受け入れ、トラウマ体験に対して自分がどの様に向き合いどの様に受け入れるかと言う事に手助けが出来ればと考えています。症状に応じて、薬物療法を試み、精神療法を行います。当クリニックでは、特にPTSDに関心をもって、研究し国内と国外の精神神経学会および研究会で注目された研究発表をしてきました。今後も研究発表を続けてまいります。
認知症とは
記憶(記銘力:新しいことを覚える。保存:覚えた事をしまっておく。想起;昔の事を思い出す)、学習、および、他の認知領域の低下が基準を下回った場合を認知症と言います。認知症には、大きく分類して、アルツハイマー病・前頭側頭葉変性症・レビー小体病・血管性認知症・外傷性損傷認知症などがあります。それぞれ症状が違います。それに応じた治療が行われます。
皆さんが良く知っておられる認知症はアルツハイマー病です。1906年に、アルツハイマーという医師が、脳の神経細胞の変性・大脳萎縮・老人班の多発・神経原繊維の変化を見出し、1910年にアルツハイマーの師、クレペリンがこれを「アルツハイマー病」と名付けました。数種類の薬がありますが、服用すると記憶や生活面である程度の改善が認められますが、完治は難しいのが現状です。
従って、認知症の治療は早期に発見して、軽度認知障害(MCI)の段階で、認知症が進行する前に治療を受け進行を出来るだけ遅らせる事が大切です。薬物療法も大切ですが、脳の老化しない様に予防もする事が重要です。詳しくは認知症ねっとをお読みください。
発達障害
幼少期から落ち着きがない、一人遊びが多い、就学しても周囲とうまく歩調を合わすことが難しいなど生活での困難さを、本人自身だけでなくまわりの家族が感じることがあります。成長するに従い、自身の持つ不得意な部分がどんどん現れてきて、学校での集団生活などを楽しめない、仲間外れにされるなど感じることもあるでしょう。
発達障害とは生まれつき持った脳の特性であり、知的発達症、自閉スペクトラム症、注意欠陥多動症、限局性学習症、発達性協調性症などいくつかの分類に分かれています。幼少期には気づきにくかった特性も、だんだんと家庭や学校などでの生活場面で現れてきて、勉強に集中できず成績が落ちたり、仲間外れにされたり、いじめられたりすることで生きにくさを感じるようになります。
その特性を本人をはじめ、家族や学校など周囲の人が理解を共有して、日常生活や学校生活などにおける、その特性に合わせた生活スタイルを見出すことが必要です。そうすることで、より学校生活などに適応しやすくなり、その特性にふさわしい歩み方ができるようになることがあります。
また大人になり、就職や結婚などを契機に周囲と協調をとることに難しく感じ始める方もおられます。このような場合、子供の頃に落ち着かない、一人遊びが多かったなどあったもののそこまで大きく表面化することなく、またある程度の周囲のサポートや理解があり、本人自身がそこまで生きにくさを感じていなかったのかもしれません。就職して仕事をうまくこなすことができなくなり、職場での人間関係でコミュニケーションをうまくとることができず、徐々に不眠や不安などの抑うつ症状が出現して、来院される方も多いです。
発達障害には、能力の凸凹があるのですが、それをうまく活用することで社会にうまく適応して、能力を発揮される方もおられます。一度ご相談ください。
不眠症とは
不眠症には、入眠障害、途中覚醒、早朝覚醒などがあります。根底に心の病気があって、不眠が起こる場合もあります。床に就くとすぐ眠れる方もいますが、一方で、枕が変ると眠れない、雑魚寝ができないという方もおられます。この場合は病気と言うよりは、もともと遺伝的に眠りが下手な方もおられます。うつ病があり、そのために不眠症が起こる場合はうつ病を治療しますと改善と共に、不眠症も改善される場合があります。
病気がないのに眠れない方が、最近増加して来ています。ストレスが多過ぎ、生活リズムが乱れた社会で、睡眠時間を規則正しく確保する事が難しくなって来た為かもしれません。もともと眠りが下手な方は、医師に相談しながら、生活リズムを変える事が必要です。適当に太陽にあたりながら適当な運動をする。座禅をする。引きこもりを止める。引きこもりが始まると、その為に睡眠相(就床時刻)が後退して、次第に昼夜逆転してしまいます。
以前、テレビ放送のアナウンサーが百歳の金さん銀さんのお年寄りに、健康の秘訣はと聞いた時に、健康の秘訣は太陽が昇ると起き太陽が沈むと寝ると言っていました。この自然の生活リズムが大切です。どうしても眠れない場合は睡眠導入剤を使用することになりますが、医師と相談しながら上手に使用することが大切です。
統合失調症とは
実際にないものをあると感じ・確信することを幻覚・妄想といいます。この病気は、多くは20歳前後に発病します。30代~40代に発病する場合もあります。陽性症状と言って、幻聴・幻視・見られている、あやつられている体験・電波が入ってくるなどの異常な体験症状を言います。陰性症状と言って、殻に閉じこもり(自閉)、何もしなく(無為)などの意欲の欠如・情動表出の減少を言います。
この病気は、発病前の前兆段階で発見し、早期に治療をするのが理想ですが、この病気は自分が病気であると言う認識(病識)が出にくいので、多くの場合、家族の方が問題行動に気が付いてから、外来受診されます。ご家族の理解・協力が大切です。症状がひどい場合は基本的に入院治療になります。